カテゴリ:治療後②アルバイト( 4 )

2度目の生理

主治医の診察を受け、ホルモン値をはかるために採血をした。

腫瘍マーカーも確認してくれるようだ。

結果は、よほど悪ければ病院から連絡が来るようだけれど
基本的には再度予約を取り、次回の診察で治療方針とともに聞くことになる。

それにしても、左腕のひじの内側の血管が
ほんとうに使えなくなってきたようだ。

もともと細くて、あまり表面に現れていないので
点滴の度にちょっと時間がかかったりしていたのだけれど
何度も針を刺して、固くなってしまったとかで
針が入らなかったり
入っても血が出てこなかったりで、ベテランの看護師さんでも難儀するようになってきて
結局今回も手の甲から採血した。

贅沢を言えば、本当は手の甲は避けたかった。
万が一青あざができてしまえば職場で聞かれるかもしれないから面倒だから。
それでもそこはベテラン、さくっと採血終了。
少しでも跡が残らないように、しばらく強めに抑えていた。
おかげで翌日には跡が残らず、よくよく目を凝らせば虫刺されの跡があるくらいの感じだった。

検査結果を待っている間
2度目の生理が来た。
けっこう規則的に来たので、ホルモン治療にお腹の注射追加、避けられないんだろうと思う。

それについては、もうあまり深く考えていない。

子供、いなくても別に生きて行ける。
お金の心配も減るし、放射能も心配だし、
何より強烈に生みたいなーというような気持ちがどこにもない。
治療の間、子供が産めなくなる、というカテゴライズになってしまうこと
選択肢がない、という状態には一抹のさみしさがある。

だけれど、私は今の穏やかな生活がずっと続いて行くなら
それは本当に幸せなことだと思っている。
タスオミンはあと3年ほど続けるので、お腹の注射もその間続く。
でも、以前ほど悔しさとかむなしさとかは感じない。
むしろ、安心感の方が強くなったかもしれない。

それは
抗がん剤と手術の後、がくんと落ちた体力と気力が
すこしずつすこしずつ、じりじりと盛り返してきて、
今の生活が色んな意味で小さく満ち足りているからだと思う。
たとえば点滅している信号を見て、
横断歩道を小走りに渡っている自分にはっと気が付いた時の
生きているんだ、という光のような衝動のようなものを
たくさん感じているからだと思う。

この満足感は、
治療中に自分に言い聞かせてきたような
とにかくわき目をふらず、見たいもの以外絶対に見ないというような感覚とは違って
闘病以前の生活の
いろいろなことが整理されて(あるものは強制的に、そしてあるものは意図的に)
自分的にちょうど良い状態で毎日を送れるようになったからだと思う。

もちろん今の状態は全然ゴールとかではないのだけれど、
この感じいいなあと思うことはけっこうあって

ラッシュアワーを避けられる勤務時間で残業もなく、
責任はほどほどな割に、そこそこ専門的な仕事内容で楽しく
病気以来なんだか億劫になってしまった、調整役交渉役はもうしなくてよいし
実はあこがれていた、手作りのお弁当を持っていける余裕ができた。

小さな職場で、物静かで趣味の似た同僚に恵まれ、ときどきおしゃべりしたりして
聞こえるか聞こえないかの低いボリュームで、好きなクラシックがかかっている。これは社長の趣味だ。
治療中にも、たくさん聞いたモーツァルトの曲などが流れていると
ぐっと胸があつくなったりする。

全てに対して、見栄を張ろうとか、少しでも良く見せて高みに昇らなくては
みたいな気持ちが薄くなったので
おしゃれも、身の丈にあった価格で気に入るものを見つけられるようになったし
(プレゼンや商談で信頼感を得るために相応の恰好をする、とかは必要なくなったわけなので)
仕事も、誠実にできる分をやるけれど
正社員ではないことを上手に使って、抱え込まなくなった。

そしてこの際、ということで苦手気味な知人とは連絡をあまり取らなくなったし、
会いたくない人からのアポは丁重にお断り。自分の人生だもの。
そうすると、自分が本当に行きたい予定+休みの時間が生まれて、これもいい。

治療の間に、お金を使わなくてもそこそこ楽しい日常の過ごし方が上手になったから
今があるのかもしれないけれど
心がとても穏やかなのだ。
図書館の近所の部屋を選んだことも大きくて
さらに職場が好きな街にあったこともラッキーだった。

なんだか、今のことしか考えずに、のんびり生きるようになったから
今はそれでいいやと思っている。
それがずっと続くように、治療は受け続けるつもり。
体が治療を受け入れているかぎり、治療法があるかぎり
そうしていくと思う。
私は私の命を大事に思って、幸運に感謝しながら
今日を楽しむ方向でいければなと思っている。
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by reeelax | 2011-08-02 10:49 | 治療後②アルバイト

知らない人と

金曜日は、落ち着いて仕事をこなすことができた。

一瞬業務がかさなりばたばたとしたけれども
無理にこなすのではなく、できないことはできないままにしていたら
当然のように別の人にそれを拾ってもらったり

ちょっと得意な仕事をふられて、体が覚えている感じがとても嬉しかったり

失敗もしたけれども、知らないのは当たり前のことだったので
きっちり反省した後は自分をせめすぎることもなく

割とありのままの自分を、飾り立てずに職場の人に見てもらうことができたような気がして
あ、これでいいのかもという小さな満足感を持って
職場を後にした。

少し気持ちが高ぶっていたので
小さなカフェに入り、ここはお茶でもジュースでもなく、一杯飲むことにした。

カラフルな野菜のタパスと、冷たく透明なお酒。
祝杯なのかもしれない。
週末の華やいだ雰囲気の中、おひとりさまの女性もちらほらいて
小さな席で思い思いに自分の時間を過ごしている。
私も、返信を忘れていたメールを返しながらちょっとくつろぐ。

あともう少しでグラスが空くという時になって
女性の2人連れが入ってきた。
50代くらいだろうか、仲の好さそうな2人。
店内は満席だったので、私はちょっと急いで飲み干して
店員さんに片手を上げる。
お会計を済ませていると、入口の女性たちが話しかけてきた。
「悪いわね、追い出しちゃうみたいで」「いいえいいえ」「どうもありがとうね」
そして、店員さんも「申し訳ありません」「いえいえ、長居するつもりもなかったので」
と皆で笑顔を交わした。

改札に向かいながら、私は何と言っていいかわからない感情に胸が熱くなってしまった。
この、なんでもない、取るに足らないやり取り。
知らない人と交わす笑顔。
社会という大きな人の流れに私も戻ってきたという気持ち。

それは別に、偉いとか、達成したとかそういうことではなくて、
告知を受けたことにより、自分が望むと望まざるに関係なく
ある意味ばっさりと断ち切らざるを得なかった
「慣れ親しんだ、以前の立ち位置」に戻ってきた懐かしさなんだと思う。
今まで、断ち切ったことは、できるだけ考えないようにしてきた。
長期の治療を受け入れ、
少しでも思い出さないように、「告知以前」につながる持ち物は容赦なく捨てたりもした。

ここから、また始まるんだな。
大きな人の流れにのって、
知らない人と取るに足らない言葉を交わしながら
私の小さな日常を
泳いで行こう。
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by reeelax | 2011-06-19 22:43 | 治療後②アルバイト

心の中

今日は仕事があったのだが
なんだか冴えない気分だった。

ホルモン治療のせいなのか
一連の治療で体力が落ちた疲れのせいなのか
病気のことで必要以上に被害妄想的な感じになっているのか
少しのことでいらいらとしてしまい
ふつふつと湧いてくるネガティブな感情を抑えて
淡々と業務を行うことがとても難しく感じる一日だった。

毎日、パーフェクトな内容の生活なんてありえなくて
たまには仕事で落ち込むこともありなのだから
こういう日もあっていいのだけれど。

何かの拍子に、
上手く行かないことのすべてを
病気になったせいだ・・・と思ってしまい
なんだかとてつもなく大事なものを「失ってしまった」ように感じ
悔しくて悔しくて仕方がなくなる。

それからそんな自分が情けなくもなる。
涙もちょっと出る。

治療も効果があって
手術もうまく行った。
髪の毛も戻ってきて
痛い所なんてどこもない。
応援してくれる家族も大事な人もいて
家は暖かく、食べるものも心配しなくていい。
職もあり、買い物を楽しむ余裕もある。

以前の自分が一度はあきらめた生活を送っているというのに
何をそんなに悔しがっているのだろう私は。
どうして悔しいと思ってしまうのだろうこんなに強く。

わからない。

わからないけど、やっぱり健康な人の世界に戻れば
あくまでアシスタント的な立場の自分が
単純に面白くないんだろう。
ああ、ふてくされてるのか。。。
いったい私、いくつだ。
どこまで過剰な自意識なんだろう。
恰好悪い・・・


一度お金持ちの生活を経験してしまうと
収入が下がっても生活のレベルを落とすことができない
という例えを聞いたことがあるけれど
なんだかそれに似ているのかもなあと苦笑いする。


病気を経験した自分は、違う価値観で生きていくんだーと思っているのに
それを表沙汰にするつもりなく社会生活を送ろうとしているから
やっぱりギャップが苦しいのかもしれない。


いらいらした気持ちを抱える自分を知って
「やっぱり正社員に挑戦するべきだったのかな?」という迷いと
「こんな小さなことでいらいらしちゃうのが今の自分なら、正社員はやっぱり無理かも」」
という思いが
頭の中でぐるぐると回った。


まあ今日は、きっと疲れているんだ。
こういう時は、熱いシャワーを浴びて
ふかふかのベッドで
ゆっくり休むに限る。

焦るな自分。完璧じゃなくていいと、自分に言い聞かせよう。
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by reeelax | 2011-06-14 00:09 | 治療後②アルバイト

新しい仕事

治療後、1年ほど続けたアルバイトを辞めることにした。

入れ替わりのように、別の仕事が見つかった。幸運だった。
仕事が決まらなければこの夏はのんびりしようと思っていたけれど
今までの経験を買ってくれた方があり
パートタイムだけれど、より規則的な出勤になる。

アルバイトを辞めたあとは
フルタイムの仕事に戻ることも考えて、面接を受けに行ったりもした。
でも、どうしても気持ちが上がらないことに気付いた。

働くことについて「フルタイム」か「パートタイム」なのかという選択肢に
とまどっているような自分もいて随分迷った。
何というか、どうせある程度働かなくてはならないのなら
フルタイムの方が責任も、待遇も勝る。
今なら、履歴書に「穴」が空いていないので
あまり怪しまれずにフルタイムに戻り、いわゆるキャリアをもう一度積み上げることができる。
年齢的にも、中堅どころとしてぎりぎり見てもらえる。
そうアドバイスをくれた方もいた。

でも、なんだか今は、「ちょっとがんばる」をしない選択をしたら
どうなるのかなあと思ってしまった。

暑いさなかに、ビジネス仕様のいでたちでホットフラッシュを我慢するような瞬間や
術側の手でパソコンを持ち歩いて移動すること
そんなことが今の私にはまだしんどい。「小さなこと」と片付けられない。

職場での地位?や、周りからの評価や、充実感は確かに私の大切な一部だったけれど
それよりも、明日のプレゼンにハラハラしながら寝付かれない夜を過ごしたり
疲れて帰って来ても出張の荷造りをして、成田エクスプレスにダッシュするような
アドレナリンいっぱいの日常より
今は穏やかな繰り返しの日々に身を置きたかった。
結局それが私の正直な全てだった。

ラッシュアワーを避けた通勤、
まだ体力が残っている内に寄り道しながらゆっくり帰る。
おかずを買って、夕食をつくって、ゆっくりお風呂に入って寝る。
待遇は保障されていないけど、休みは保障されていて
電話やメールに追いかけられることもない。
頼まれる仕事は簡単すぎず難しすぎず、
自分のちっぽけな専門も生かすことができて、
勉強のしがいもあるし有難いことだと思う。
職場の方も年齢が近く、落ち着いた雰囲気なので
前の職場で年の離れた若い方たちの中にいたときより
自分らしくいられる気がした。

今回の選択は、災害があったことも関係しているかもしれない。
病気だけでなく、色々な理由で人生に影響を受けてしまうんだと
改めて思った。
だったら、面白そうと思うことをやってみようと思った。
変な話、もし病気にならなかったら、待遇が不安定なことなどがネックになって
絶対に選択しなかっただろう道だから。

病気で軌道がぶれたからと言って
元の道に戻るだけが、正しい進み方ではないはず。
今までだって、ここでそう書いていたこともあったけど
今回初めてそれを実感できたかもしれない。
自分にとっての、いちばん心地よいやり方がこれなんだなあと思う。

部屋の、開け放した窓から
あまり上手でないバイオリンが聞こえてくる。
自分もいつか練習したその曲に
子供用の小さなバイオリンを思い出す。
友達の妹のものだったけど本当におもちゃのようだったなと懐かしい気持ちになった。
64分の1、だったかな?
ゆらゆらと薄いカーテンが風になびいて
梅雨時の空が白っぽい。

今の私には、こういう時間がたくさん必要。
今はゆっくりと生きて、その中で出会うことを大切にしていこう。
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by reeelax | 2011-06-07 13:23 | 治療後②アルバイト

34歳 シングル 始まりは乳がんstageⅢC。術前化学療法・部分切除・放射線治療・術後ハーセプチンまで終了。現在ホルモン療法中。自分の心と体を大事な友人のように扱いながら治療の日々を過ごしてきました。


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